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N. G. Place

ゴッドファーザー(カバの)

先週からカバのことばかり考えていた。

きっかけはYPの一言だった。
「上野動物園のカバって、日本中のカバの母親なんだって」
なんでも、先日行った美容室での話題らしい。

気になって帰ってから調べてみたが、検索にヒットしない。
ガセネタ…?しかし根拠のない話にしては少しばかりリアルな気がした。
なかば自棄気味に検索を続けていると、東山動物園の重吉に行き着いた。
日本のカバは26動物園に53頭いて、その内の60%が東山の「重吉、福子」の子孫といわれる。1952年7月に来園した重吉は日本のカバの長寿記録をただ今更新中。福子は19頭のこどもを出産したが、日本のカバ多産記録を樹立し1997年8月に死亡した。後継に「メイ」(写真)がメキシコの動物園から来園している。
東山動物園公式HPより

なるほど。話を聞いたときの私の第一印象では、日本に初来日したカバの子孫が日本中に散在している、というものかと思ったけどそうではないのかもしれない。
でも、なんだかいまいち納得できない。
と、この本に行き着いた。




『だからカバの話』/宮嶋康彦
著者の本業は写真家である。
なんだか見た事のあるお名前だと思ったら、雑誌サライで「誰も行かない日本の風景」を担当されている方だった。サライは父が一時期愛読していて、私もよく読んでいた。見開きで美しい風景が掲載されていたのだけど、好きなコーナーだったので何となく覚えていた。

自分と同世代である、東山動物園で飼われていたカバ夫婦、重吉・福子との偶然の出会いから、著者はカバの世界にのめり込んで行く。
戦時中、非常事態に備えて殺された猛獣たちの中にカバも入っていたため、現在日本国内にいるカバの系図は、戦後から、ということになる。確か小学生の頃の教科書にそういうふうにして殺された象の話が載っていて、頭では知っていたことだけど、カバもその対象になっていたことには気付かなかった。
その他戦後、移動動物園という興行で連れ回された動物たちの中にカバが含まれていたこと、狭いケージで日本各地の巡業先を転々とする日々は過酷なもので、いずれの動物も短命であったことを知る。
著者は日本各地に点在する重吉・福子の子供たちを尋ね歩く。居所の知れない子供も多い。動物園の動物の管理は徹底されていると思っていたけど、そうでもないらしい。行方の知れない子供も沢山いて驚いた。ハッピーでピースフルな動物園の闇の部分。
この本が書かれたのは1999年だから、今はどうだか知らないが、カバが日本国内の動物園で増え過ぎているという。それに引き換え、重吉の故郷アフリカ・ジュジャでは重吉が来日した後にできたコーヒー農場の害獣として、カバはすべてが射殺処分にされ、もうカバはいないという。
日本に来たカバたちは幸せだったのか不幸せだったのか。

主観が入り、学術的には資料的には問題のある本かもしれないけど、私はこういうスタンスが好きだ。途中からもう著者にとってカバの出来事は「カバ事」ではなくなってくるので文章も熱くなり、こちらも感情移入してしまう。
文庫本の一番最初に野生のカバが川を渡る写真が載っている。読み始めの時は「カバだ」ぐらいしか思わなかったが、読後改めてその写真を見ると、その写真を巻頭に載せた筆者の思いが伝わってくる。

1999年の時点での国内動物園全カバ系図も載っている。
これだけでも見る価値ありだと思う。



by pea19 | 2005-04-23 14:42 | 趣味

N. G.なもの・人・場所を記録しておいて、近寄らないようにしたい。
by pea19

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